〜 新人さん、いらっしゃ〜い 〜


 夜、仲良しグループ内での転校生歓迎会が催された。
お祭り好きの梓が提案、それに賛同した優奈がメンバーに召集をかけたのだが、その本音は、いかに堂々とどんちゃん騒ぎをするか。というところにあることを、歓迎される愛はまだ知らない。
昼間愛を連れていった優奈いわく、「おもしろい店」というのは、個人でやっているちょっとしたやたい風の店だった。
安い、うまい、でかいという学生が喜ぶ3条件をそなえたメニューは、若葉盲の生徒はもちろん、近所の中高生にも人気がある。そこで調達したたこ焼きだのお好み焼きだのに加え、購買で買ったと思われるこれまた大量のお菓子を持ち込んで、談話室の一角で準備が整った。
 「…これ、全部食うんだよな?」
 女子たちに少し遅れて合流した涼は、げんなりとつぶやく。すでに梓はポテトチップスの袋を一つ空にして、優奈にお茶を入れてもらったそれを一気飲みしたところだった。
 「いわゆる別腹ってやつじゃ?」
 涼と一緒にやって来た男子が苦笑する。それを聞いた愛が笑いながら答えた。
 「女の子はね、別腹で生きてるんだよ」
 「うん。知ってる…。」
いいながら椅子を引いた男子たちは、一応差し入れに持ってきたポップコーンの袋を食料の山に加える。そこにさらに、女子のあきれ声が近づいて来た。
 「なんだぁ? この食い物の山…。で、結局この面子か? …梓ぁ、ゴミは床に置くな。どうせ忘れて帰るんだろうが。ちゃんと毎回捨てろ」
 怒られて梓はチョコチップクッキーでいっぱいの口をもごもごさせながら急いで談話室の何箇所かに置かれたごみ箱の一つを持って戻って来る。もしかして今来たのは先生なのかな? と首をかしげる愛の隣の席に彼女は座ると、ペットボトルを優奈に渡した。
 「う〜ん、やっぱここはかけてないときっついな…。」
 そう言って眼鏡をかけたらしい彼女が愛を振り返る。視野のちょうどいい部分に偶然顔が見えて、かけたのがサングラスだとわかった。
 「あぁ、やっぱりこの前の子だ。廊下で会ったの覚えてる?」
 「あぁ…、オリエンテーションの日の?」
 「そうそう。あたしは湯月まりな(ゆづき まりな)。理療科専攻科の3年で、ここの寮長もやってるから、何かわかんないことがあったら聞いてくれていいからね」
 「はぁ…。はい。よろしくお願いします」
 「大丈夫だよ。マリ先輩たまに怖いけどヤンキーじゃないから」
 梓が言う。
 「ちなみにこのサングラスは、あたしは光に弱いから、夜でも明るい場所じゃ、これがないとまともに物が見えないんだよ。逆に夜に本を読むのに電気がいらないのがちょっと便利だな」
 うんうんと自分の言葉にうなずくまりなにもドリンクが渡り、いよいよお祭りが本格的に始まった。

   *   *   *   *   *

 「俺は静岡の沼津からこっちに来たんだ。小学生の時はそこの特殊支援学校だった」
 涼と一緒に来た彼、柳本和弥(やなぎもと かずや)は、中学入学から涼のクラスメイトだったらしい。ゲームとッパソコン、オーディオを愛し、現在情報科に在籍している。運動は苦手だが頭の回転が速いいらしい。
 「…情報関係ってなるとさ、職業訓練のほうに行くか、筑波技術大学とかになると思うんだけどさ、せっかく高校に情報科があるんだし、ここで基礎をやっておいたほうが後でちょっと楽になるかと思ってこっちにしたんだ。愛ちゃんは仙台なんだよね? あっちの盲学校ってどんな? なんでこっちに来たの?」
 「えぇっとねぇ…。」
 スイッチが入るとマシンガンになるらしい和弥にちょっとタジタジだ。質問には答えるから、とりあえず一つずつにしてほしいなと愛は心の中でお願いする。
 「ついこの前まで普通の高校に通ってたから、向こうの盲学校ってよく知らないんだ。見学したのもここだけだし」
 「ここだけ?」
 「うん。お父さんの知り合いがここを教えてくれてね。地元でも別によかったんだけど、寮もあるなら、どうせだから都会で女子高生やりたいなぁって親に言ったら、『軽いノリで考えるな!』って起こられたけど、パンフレット見て、とりあえず見学だけするかってなって、来てみたらけっこうピンと来て、即決した」
 確かに軽すぎだろ、それ…。と全員思ったが、思い当たる何かがあるのか、梓と優奈はうんうんとうなずいてもいた。
 「確かにねぇ。都会の女子高生ってなんかあこがれるよねぇ」
 「そうそうそう。場所って超重要。うちの前の学校、近くに店がなくてさ、駅前のファーストフードかファミレスで、放課後、うちの生徒ばっかりなのよ。全然プライベートにならないんって感じ。あとは、あたしはこっちで就職したかったし」
 「その辺りは仙台駅の近くだったから遊ぶとこはいっぱいあったよ。でも私って部活ばっかりやってたからあんまり詳しくないなぁ。機材とか揃えたりするのでショップには詳しいけど。あんまり部活ばっかりやってたのと、視力落ちたせいで勉強遅れてさぁ、結局留年しちゃったよ」
 最後のほうはちょっと恥ずかしそうに愛が言うと、その場の全員が仰天した。
 「留年ってことは?」
 「「もしかして…。」
 「愛ちゃん、うちらより年上?」
 「うん。2年生が2回目。誕生日も過ぎたから、今18だよ」
 「…あたしより10ヶ月上なのか」
 (…絶対こっちのほうが年上だよな…。)
 まりなを盗み見た涼めがけて、チョコレートの箱が飛んだ。
 「悪かったな。フケてて。顔に書いてあるぞ、コラ?」
 征服を着ていると女子高生なのに、私服だと20代半ばのヤンキーな姉御に見えるまりなに凄まれた涼はそれきり萎縮してしまったが、どんちゃん騒ぎは消灯まで続いた。

 とにもかくにも、こうして彼らの平凡でな日々は始まった。
春爛漫。東奔西走、青春謳歌…。さて、これから何が待っているのやら?

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